COMM Research Note 008 / PGP-002

OpenPGP準拠メーラについての調査

平成14年2月11日
平成14年5月21日: 注を追記

間宮章彦*1 荒川健介*2 市川快*2

岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科*1
岩手県立大学ソフトウェア情報学部*2


1. はじめに

PGP/GnuPGは,Windows・Macintosh・UNIXといった異なるOS上の様々なメールクライアント用アプリケーション(メーラ)から利用することができる.本稿ではこれらOpenPGP[1]をサポートするメーラにおける特徴や使い勝手を調査し,その問題点を挙げる.

本稿の目次は以下の通りである.


2. OpenPGP準拠メーラの現状

本節ではまずWindows, Macintosh, UNIXの各OS上で動作するOpenPGP準拠メーラの現状を報告する.調査したOpenPGPの実装は,PGPおよびGnuPGの二つである.

Windows環境では,Outlook Express6,Becky!2 ,Eudora5といったメーラでのPGP/GnuPGの特徴を報告する. またMacintosh環境ではOutlook Express6, Eudora5およびMacOSXに標準のメーラについて報告する.そして,UNIX上やEmacs上のメーラについても同様に報告をおこなう.

メーラはPGP,GnuPGといったデータを暗号化するアプリケーションを用いることにより電子メールの暗号化を実現している. 電子メールで暗号化したデータを送る場合,暗号化および署名とメールの送信とをそれぞれ別々におこなう方法もあるが,本節ではRFC3156に定義されているPGP/MIME[2]によって提案されているOpenPGPとメールの統合環境の実現について評価する.

2.1 Windows環境における特徴

PGP7.1はWindows 98/NT/2000/ME上で動作し, GnuPG1.0.6はWindows 95/98/NT/2000/ME上で動作する. どちらもソースコードを入手できるが,Window上ではコンパイルする ために特別の手順が必要なために専らバイナリ配布で利用されている.

2.1.1 プラグインとは

Windows環境においてメーラと暗号化アプリケーション間のデータのやりとりは,ほとんどの場合,「プラグイン」というメーラに機能を付加するアドオンにより実現する. Windows上では,どのプラグインも特定のメーラに依存するので他のメーラでは利用できない.

PGPでは,製品版・無料公開版ともにOutlook, Outlook Express, Eudora, Lotus Notes/Dominoといったメーラごとのプラグインが用意されている. また,メーラによってはメーラ自体がPGPに対するプラグインを標準で備えていたり,第三者がプラグインを公開しているのでこれを利用できる.

GnuPGには,メーラごとのプラグインは付属していない.しかしながら第三者が特定のメーラのプラグインを公開しているので,メーラによってはGnuPGを利用可能である.

2.1.2 PGP/GnuPG用プラグイン

メーラごとのプラグインについて説明する. Outlook Express6では,PGPに付属するプラグインは日本語の利用ができない[15].GnuPGに対応するプラグインでは,第三者が公開しているGPGOE[12]を利用することができるが,日本語処理が正しくおこなわれない(日本語処理および正規化に関しては次の第3節でくわしく述べる).

Becky!2 ではメーラがPGP6.x用のプラグインを用意している[17].また,GnuPGに対応するプラグインは第三者が公開しているBkGnuPG[16]を利用することができる.

Eudora5ではPGPに付属するプラグインが利用できるが,筆者がおこなった実験では日本語処理が正しくおこなわれなかった. このように,プラグインでの日本語処理に関してはメーラによってかなり動作が異なるという問題がある.

2.1.3 GnuPGとGPGrelay

GnuPGの場合,プラグインとは異なり,メーラに非依存なGPGrelay[3]というアプリケーションを利用する方法がある.これはメーラとメールサーバーの途中に入ってメールを中継(リレー)するアプリケーションで,メールを中継する際にGnuPGで暗号化/署名または復号/検証,そしてPGP/MIMEの処理をおこなう. 以下に図を用いてGPGrelayの中継動作を説明する.

メールに暗号化/署名を施して送信する場合のデータの流れを図1に示す.


図1: GPGrelayの送信
図における各作業の詳細は以下の通りである.

暗号化/署名されたメールを受信して復号/検証する場合のデータの流れを図2に示す.


図2: GPGrelayの受信
図2における各作業の詳細は以下の通りである.

2.1.4 Windows環境のまとめ

本節では,PGP/GnuPGと既存のメーラとを統合するWindows上のソフトウェアとして,プラグインとリレーの2種類を紹介した. プラグインはメーラに依存するために各メーラで対応がまちまちである. それに対して,リレーはメーラに非依存であり,全てのメーラと組み合わせる事が可能である. プラグインによっては日本語処理について問題が発生するが, 日本語処理の現状と対策については次の第3節で述べる.

2.2 Macintoshにおける特徴

2.2.1 Classic(MacOS9まで)環境における特徴

MacintoshはMacOSXから大きくOSの構造が変わった.そのためOpenPGP準拠メーラの現状も大きく違う.MacOSXにはClassic環境(MacOS9)をエミュレートする機能があり,Classic環境での手法はMacOSXでも実現可能である.

MacOS 9までの環境で動作するOpenPGPの実装は,Network Associates, Incが製品版および無料配付版を提供しているPGPのみである.また,PGP/MIMEに対応しているメーラは,EudoraのみでOutlook Expressは対応していない.PGP freeware側で用意しているプラグインも,Mac版ではEudora用のものだけである.よって,事実上,MacOS9まではPGP/MIMEで提案された方式にしたがってメールのやり取りができる環境はPGP freewareとEudoraの組み合わせだけになり,ユーザの選択肢がUNIX, Windowsといったプラットフォームと比べると少ない.また,PGP freewareバージョン7.0.3とEudoraの組み合わせでは,筆者がおこなった実験で日本語処理が正しくおこなわれなかった.

2.2.2 MacOSXにおける特徴

次に,MacOS9の後継OSであるMacOS Xでネイティブ(Cocoa[19])に動作するソフトウェアについて述べる. BSD UNIXをベースとするMacOS Xでは,UNIX向けのコマンドライン版PGP/GnuPGだけでなく,GnuPGのMacOS Xへの移植版であるMacGPG[20]が動作する.

MacGPGは,パッケージで配布されている. また,OSに付属する標準メーラが,MacGPGを利用して暗号メールの送受信を実現しているGPGMail[21]というプラグインが第三者により公開されている. GPGMailは,MenuやDialogの日本語表記や文字コードの一部正規化 をおこなったバージョンが第三者によって公開されている[22].

OS XはUNIXベースのためMewなども動作するが,GUI(グラフィカル・ユーザインタフェース)ベースでの操作を考えると, 2002年2月現在のところ,MacGPG+標準メーラ+GPGMail(注1)の組み合わせに代わるソフトウェアは無い.

注1: 参考文献[22]で配布しているGPGMail 0.5.2(v13)に日本語化パッチ(p3)をあてたもの

2.3 UNIXにおける特徴

PGP/GnuPGはGNU/LinuxやSunOSなど各種UNIXで動作する. それらを利用できるOpenPGP準拠メーラも,数多くのソフトウェアが公開で開発されている. PGP/MIMEを実装したメーラの代表的なものとしては MuttKMail[24], Sylpheed[25]がある. 開発者の総数が多いUNIXでは,他のプラットフォームにくらべてOpenPGP準拠メーラの選択肢は多いと言える. またUNIXをはじめとする複数のプラットフォームでも動作する多機能エディタEmacs上で動作するメーラとしては, MailcryptMew[7]がある.

GnuPGプロジェクトでは,アプリケーションからGnuPGの機能を 呼び出すためのライブラリ`GnuPG Made Easy'(GPGME)の開発を2001年から開始している. GPGMEは暗号化から鍵管理におよぶセキュリティAPIを提供するライブラリで, すでにいくつかのUNIX上のメーラ開発に影響を与えている. 従来のメーラは専らGnuPGコマンドを起動していたが, GPGMEが整備されれば,メーラは 統一的なAPIを用いてGnuPGの機能を利用することが 考えられる. 2002年2月現在はGPGMEはアルファ版だが, すでにUNIX上の幾つかのメーラがGPGMEをとりいれはじめている.


3. 日本語環境におけるOpenPGP準拠メーラの検証

前節では主に動作状況について報告したが,本節では利用性について報告する.

日本語環境でOpenPGP準拠メーラを利用する場合に,暗号化したメールを受信し,正しく復号しても,文字化けをおこすことがある.まずこの問題についての評価をおこなう.

3.1 文字コード問題

プラットフォームで使う文字エンコーディングとネットで流通している文字エンコーディングが異なるために日本語利用で問題がある.

3.1.1 改行の文字コード

日本語テキストを暗号化したり,署名を施したりする場合には,行末がCRLFであるISO-2022-JP(JIS)に変換する必要がある[4].このように異なるコンピュータ間で通信する場合は,ある正式な表現方法に直してから配送する必要がある.これを正規化と呼ぶ.行末の表現方法は以下のようにOSによってまちまちである.
UNIX
LF
Macintosh
CR
Windows/MS-DOS
CRLF
このような状況で異なるOS間でPGPを使うと問題が起きる.たとえば,UNIXで行末がLFであるテキスト・データに対し,PGPを使ってクリア署名を生成するとき,これをMacintoshで受け取ると,クリア署名の行末はCRに変換される.このためMacintoshでこのクリア署名を検証すると,文書はきちんと表示されても署名検証には失敗する.

そこで,テキスト・データを暗号化したり,署名を施す前に,行末をある決められた文字列に変換する必要がある.復号や署名検証の際には逆の変換が必要となる.この行末を表す文字列には,RFC2822[5]で定められた行末であるCRLFを使うことになっている.

3.1.2 日本語の文字コード

同様な問題が改行コードのみならず日本語の文字コードのやりとりにおいても発生する.日本ではISO-2022-JP(JUNET コード,いわゆるJIS),Shift_JIS,EUC-Japanという3つの文字コードが主に利用されている. ISO-2022-JPとEUC-Japanは主にUNIXで,Shift_JISはWindows/MS-DOSおよび Macintoshで使われている.このため“UNIX <---> Windows, Macintosh" 間で暗号化や署名したメールをやりとりする際に問題が起きる.たとえば,UNIX で EUC-Japan に対して署名し,WindowsでShift_JISに変換されたクリア署名を検証すれば,必ず検証は失敗してしまう.このため文字コードも行末と同様正規化する必要がある.

RFC 1847[18]では配送の際の文字コードを正規化することが決まっており, ISO-2022-JPが正規型となる.つまり,電子メールでPGPの日本語テキスト・デー タをやりとりするには,どんなOSでもあらかじめ文字コードをISO-2022-JPに 変換し,行末をCRLFに直す必要がある.このため日本語に対応したほとんど全 てのメーラは,自動的に文字コードをISO-2022-JPに変換(正規化)し,行末をCRLFに直 す.これは実際に送信されるときにおこなわれることが多 いので,正規化の前に暗号化や署名してしまうと問題が起きる.

3.1.3 配送システムにおける文字コード

最近のシステムでは見られなくなったが,ISO-2022-JP がいわゆる新JIS,旧JIS,ASCII,ローマンを格納できることからも問題が発生する. RFC1847[18]ではMultpart/Signedの内容は変更してはならないと規定されている.しかしRFC 1847が公表された1995年10月より前に実装された一部の配送システムでは“新JISと旧JIS",“ASCIIとローマン"をそれぞれを交換するものがある.新JISが旧JISに変更されても,表示される日本語は変わらないが,電子署名を施す際には大きな問題となる. この場合,やりとりをする双方の利用者が正規化を行なっていても配送システムによってコードが変わってしまう.

3.1.4 文字コードの表現能力

次にISO-2022-JPがShift-JISやEUC-Japanよりも表現能力が大きいことから起きる問題がある.たとえば,ISO-2022-JPで記述された日本語テキストには,新JISと旧JISが混ざっていたとする.これに署名を施して電子メールで送りると,Windows系のメール配送システムがこの電子メールを受け取ると,しばしばShift_JISに変換しうる. Shift_JISでは新JISと旧JISを区別できないので,新旧の情報が失われてしまう.このため署名の検証の際に,ISO-2022-JPに戻そうとしても,すべて新JISかすべて旧JISのいずれかのテキストしか生成できない.よって,署名の検証は失敗してしまう.

3.1.5 現在の文字コード問題に関する対策

a) PGPプラグインでの対応
一部のメーラはメーラ付属のプラグインや第3者が公開しているプラグインを用いることにより,PGPやGnuPGが利用できる.PGP社(現在はNAI社)のPGP freewareにもプラグインは付属しているが,このプラグインは3.1節で述べた文字コードの問題から日本語環境では文字化けが起きたり,署名の検証ができない場合がある.

ソースネクスト株式会社が商品として販売しているPGP(PGP Personal Privacy Ver.6.5.8J)は,PGP自体のメニュー・ダイアログ・メッセージの日本語化と特定のメーラの日本語対応プラグインが含まれる[9].これは費用がかかるのが難点である.

b) PGP自体の改変

個人ユーザがWindows用のPGP freewareを文字列をISO-2022-JPで処理するように改造したPGP 6.5.1iの日本語化パッチプログラムが公開されている[8].2002年2月現在,最新版の6.5.8/7.1.1には未対応である.また,日本語文字コード以外のコードが扱えなくなる問題があらたに発生するために,文字コード問題を解決したとは言えない.

c) GnuPGとリレーでの対応
プラグインはメーラやPGPに日本語に対応する機能を加えるという方法だが, GPGrelayのようにメーラとメールサーバーの途中に入ってメールをリレーする アプリケーションがある.メールをリレーする際にGPGrelayは/暗号化/署名または復 号/検証をおこない,PGP/MIMEの処理をおこなう. この方法はプラグインが必要なく,これまで使っていたメーラがそ のまま使え,自由にメーラを選択することができる.

以上のように,Windows環境でPGP/GnuPGを用いて日本語でメールをやりとりするには,プラグインを用いてメーラごとに対応する方法,PGP自体 を日本語化し,PGPで対応する方法,メーラとメールサーバを中継する際に暗号化/署名・復号/検証をおこなうという3つの方法がある.

これら3つの方法を比較するとメーラに依存しないGPGrelayを使った方が 移行コストや教育コストが少なくできると考えられ,推奨できるだろう.しか し,GPGrelayはその特徴から送信側と受信側のローカルディスクに平文のデー タが残るという問題があるので,その点について通常のGnuPGとは 異なる注意が必要である.

3.2 相互接続性実験

3.2.1 Windows-UNIX

表1に示す組み合わせにしたがって,Windows-UNIX間でGnuPGを用いたメールの相互接続性実験を行なった.
実験環境A 実験環境B 実験環境C

実験環境D

OS Vine Linux 2.1.5 Windows2000 Windows2000 Windows2000
メーラ Mew 2.1 Becky! 2.00.08 Eudora 5.0.2-Jr1 Outlook Express 6
暗号化アプリケーション GnuPG 1.0.6 GnuPG 1.0.6 GnuPG 1.0.6 GnuPG 1.0.6
ツール GPGrelay 0.82 GPGrelay 0.82 GPGrelay 0.82
表1

実験結果を図3に示す.“◎"は問題なく利用できたことを示す.“△"は暗号化し,署名をおこなった場合に検証は正しくおこなわれたが,復号されなかったことを示す.どの組み合わせでも暗号化だけをおこなった場合や署名だけをおこなった場合は問題がなかった.


図3

このようにUNIX上のメーラであるMewと,GPGrelayと組み合わせて使った複数のWindows上メーラ間で,暗号化または署名だけをおこなう場合には相互接続性があった.しかし,Mewで暗号化した後に署名をしたメールを,GPGrelayとWindowsメーラを組み合わせた環境で受信した場合に,署名の検証は正しくおこなわれたが,復号されないという問題点がある.

3.2.2 MacOS X での相互接続性

MacOS Xでの検証としては,MacOS XのGPGMailと標準メーラの組み合わせと, UNIXおよびWindows上のメーラ(注2)との間で送受信をおこなった. この試験において一部に問題が発生した. UNIX上のMewで「暗号化してから署名」をおこなったメールの場合, Macintosh上のGPGMailでは署名を検証できるが,復号はできない. それ以外の復号および署名の検証は成功した.

また,日本語化されたGPGMail(注3)では,Windowsから送られてきた暗号メールの復号ができないという問題が発生した.日本語化されないオリジナルのGPGMailでは復号は出来るが,日本語の入力ができなかった.

注2: 表1に示したUNIXおよびWindowsの実験環境
注3: 参考文献[22]で配布しているGPGMail 0.5.2(v13)に日本語化パッチ(p3)をあてたもの

3.3 この節のまとめ

PGP/MIMEのメールで日本語メッセージをやりとりする際に, Windows同士やMacintosh同士といった同じプラットフォーム間では 相互接続性に問題はない.しかし,異なるプラットフォーム間での 日本語処理,およびPGP/MIMEの処理において問題が発生する.

Mewと他のメーラとの間で発生した問題については, PGP/MIMEの処理において相違がある可能性があるが,今回の実験では原因を 特定できなかった. 今回はUNIXでの評価用メーラとして Emacs上のMewを用いたが,Mewとのやりとりで一部発生した問題については, Mewとは異なるUNIXメーラ,たとえば GPGMEをとりいれたSylpheed[25]などを加えてさらに検証を行なう必要があると考えられる.


4. ユーザインターフェイスの現状

ここではOpenPGP準拠ツールのユーザインターフェイスについて述べる.具体的にはメニュー,ダイアログ,システムメッセージの日本語化とGUIへの対応の現状を述べる. 前節では主にPGP/MIMEにおける日本語処理に注目してOpenPGP準拠メーラの使い勝手を検証した. 本節では,利用性におけるもう一つの大きな要素として,インターフェースの問題に注目する. 具体的には,メニューやダイアログの日本語化がなされているか,GUIが使えるかといいったユーザインターフェイスの視点から,ユーザの使い勝手に関する評価を行う.

4.1 PGP/GnuPGにおけるユーザインターフェースの日本語化

4.1.1 Windows環境におけるメッセージの日本語化

PGP 6.5.1i は個人ユーザがメニュー,ダイアログ,システムメッセージの日本語化パッチプログラムを配布している[8].このパッチプログラムを用いることにより日本語化表示が可能となる.ヘルプ等のオンラインマニュアルは日本語化はされていない.

企業が製品として日本語化しているものもある.PGP 6.5.3, PGP 6.5.8はソースネクスト株式会社[9]と日本ネットワークアソシエイツ株式会社が日本語化して製品として発売している.しかし日本ネットワークアソシエイツ株式会社はPGP Security ビジネスの再構築に伴い,2001年10月15日をもって販売を終息している[10].よって,現在は日本語商用版のPGPはソースネクスト株式会社からのみ購入ができる.

GnuPGは,ソースコードには日本語メッセージが収録されているが,Windows環境ではメニューやダイアログが日本語化されない.これはWindows上ではソースコードからの構築が難しいために英語1種類のバイナリしか配布していないためである.

4.1.2 Macintosh環境におけるメッセージの日本語化

MacOS 9以前のOSで動作する PGP freewareは,個人ユーザによって日本語表示化パッチが配布されている[11].このパッチを使用したところ,key ringなどの画面表示がすべて日本語で表示 された.ただし,ヘルプは日本語化されていない.

MacOS XにGnuPGを移植したMacGPGでは,次に述べるUNIX版のGnuPGと同様に,ソースコードからコンパイルする際の指定でメッセージ表示を日本語その他の言語から選択できる. MacOS X標準メールへのアドオンである GPGMail(注4)は,メニューなどが日本語化されているが,エラーメッセージは日本語化されていない.

注4: 参考文献[22]で配布しているGPGMail 0.5.2(v13)に日本語化パッチ(p3)をあてたもの

4.1.3 UNIX環境におけるメッセージの日本語化

UNIX版GnuPGは対話型メニューやオンラインヘルプだけでなくシステムメッセージでも多言語対応がすすめられており, ソースコードをコンパイルする際に多言語でのメッセージ表示を指定できる. 2002年2月現在,英語・ドイツ語・オランダ語・エスペラント語・エストニア語・フランス語,ドイツ語・日本語・イタリア語・ポーランド語・ブラジルポルトガル語・ポルトガル語・ロシア語・スペイン語・スウェーデン語・トルコ語の16の言語を選択可能である. (くわしくはパッケージに含まれているABOUT-NLSを参照のこと.) また,日本で開発されたLinuxディストリビューションの中には,あらかじめ日本語でメッセージ表示をおこなうGnuPGが収録されている場合もある.

4.1.4 ユーザインタフェース日本語化のまとめ

ユーザインタフェースの(日本語に限らない)多言語化という観点からは, UNIX上のGnuPGがもっとも充実している. これに対して,Windows版のGnuPGはソースコードからの構築が困難なため,公式には英語版バイナリしか配布されていない.このためにソースコードには日本語化メッセージが含まれているのにバイナリを変更して日本語化するパッチが非公式に配布されている. このことは日本語でGnuPGを操作したいという需要を示している.

4.2 PGP/GnuPGのGUI対応

4.2.1 Windows環境でのGUI

PGPはPGP 2.xまではキーボードからコマンドを入力して操作するキャラクタベースのCUIのみを提供していたが,PGP 5.x以降はGUIが実装された.さらにPGP 7.x以降ではCUIは廃止され,GUIからのみ利用できる.

GnuPGは本来CUI環境のみを提供しているが,フロントエンドであるWinPT(WinPT Version 0.5.0)[12]を用いることによりGUIで操作ができる.

4.2.2 Macintosh環境でのGUI

Windows環境と同様にPGPはPGP 2.xまではCUIのみを提供していたが,PGP 5.x以降 はGUIが実装された.PGP 7.x以降ではCUIは廃止され,GUIのみ利用できる.

MacOS Xでは,GPGMailを用いた標準メーラでの送受信は, すべてGUI環境でおこなうことが出来る. しかし,MacGPGでの鍵の生成や管理などの基本操作は, コマンドラインからおこなう必要がある.

4.2.2 UNIX環境でのGUI

多くのUNIXに採用されているデスクトップ環境GNOMEには,GUIからPGP/GnuPGを操作するフロントエンドアプリケーション(ラッパー)が付属している. GNOME付属のフロントエンドには,Seahorse[13]やGnome PGP[14]がある. GNOME以外のデスクトップ環境としては,KDEのメーラであるKMail[24]もGnuPGをサポートしている. また,Gnome PGPと同じ作者がTkPGP[14]というフロントエンドを公開している.これらを用いることにより複数のデスクトップ環境でGUIが利用できる.

歴史的に,UNIXでは長らくコマンドラインで操作をおこなうCUIのPGPおよびメーラが普及してきた.このCUIはもともと2400bpsといった低速シリアル接続でも動作するように設計されたために,キャラクタ1文字でコマンドを操作するものが多い[14, TkPGP Documentation].しかしながら現在の回線状況ではGUIのオーバーヘッドは問題にならなくなるにつれて,今後のキャラクタ1文字の操作を習得するよりもよりコストが少ないGUIでの操作がUNIXユーザに普及すると考えられる.

そして最終的には,双方の利点を生かし,キーボードからもキャラクタ1文字で操作ができると同時にGUIからも操作できるインタフェースが主流になると考えられる. そのような設計がなされているものとして,Sylpheed[25]をあげることができる.

4.2.3 ユーザ評価

今回,我々は数人のWindows/Macintoshユーザの学生にPGP/GnuPGのインストールとメーラの設定を依頼した. Windows/Macintoshの標準的なGUIと共通のフロントエンドからPGP/GnuPGを操作できれば,他のアプリケーションと同じように操作できるため,導入時のコストは低減された. したがって,Windows/MacintoshユーザにはGUIフロントエンドの利用がCUIよりも移行コスト,教育コストの面で優れているといえる.

ただし,GUIで操作できればPGPを使えるようになるというわけではない.Alma Whitten と Doug Tygar は NAI(当時はPGP社製)のMacintosh用PGP 5.0のGUIについて評価をおこなない,そのデザインがセキュリティ機能を使いにくくしていると結論している[23]. 指摘された問題点の中にはPGP6.0以降で解消されたものもあるが,GUIで操作すれば使いやすくなるわけではないことをこの研究は示唆している. この点については,GNU Privacy Handbook[26]の「ユーザーインターフェースの作成」の節に詳しい説明がある.

4.2.4 GUI環境のまとめ

Windows, Macintosh, UNIX上でPGP自体が提供しているGUI環境や,GnuPGフロントエンドアプリケーションを利用することにより,GUIからPGP/GnuPGを利用することができる. これによってOS(もしくはデスクトップ環境)の標準的なGUI操作の延長線上でPGP/GnuPGを操作することができ,より少ない学習コストでの操作が可能になる.

5. まとめ

本稿では,Windows, Macintosh, UNIX上での メーラでのPGP/GnuPGのサポート状況,および利用性について報告した. そして利用性のポイントとして 異なるプラットフォーム間での相互接続性とGUIのサポートをあげ,検証評価を 行なった.

6. 参考文献

[1] Callas, J., Donnerhacke, L., Finney, H. and R. Thayer, "OpenPGP Message Format",
RFC 2440, November 1998.

[2] M. Elkins, D. Del Torto, R. Levien and T. Roessler, "MIME Security with OpenPGP",
RFC 3156, August 2001. (Updates RFC2015) (Status: Proposed Standard)

[3] dynacore(Andreas John), GPGrelayの配布ページ,
http://sites.inka.de/tesla/gpgrelay.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[4] Simson Garfinkel 著 山本和彦 監訳 株式会社ユニテック 訳:PGP 暗号メールと電子署名, pp.369-372, O'Reilly Japan.(1996)

[5] P. Resnick, Editor. , "Internet Message Format", RFC2822, April 2001. (Obsoletes RFC0822) (Status: Proposed Standard)

[6] Galvin, J., Murphy, G., Crocker, S., and N. Freed, "MIME Object Security Services", RFC 1848, October 1995.

[7] 山本和彦, Mew Official Homepage, http://www.mew.org/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[8] 橋谷政悟, PGP日本語版, http://www.hizlab.net/pgp/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[9] ソースネクスト株式会社, PGP Personal Privacy Ver.6.5.8J http://www.sourcenext.com/products/tetsu_sec/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[10] Networks Associates Technology, Inc., PGP製品統合について, http://www.nai.com/japan/company/pgp-integrated.asp
(最終アクセス 2002年1月11日)

[11] ハリー小野: Mac Clinic PGP 7.0.3 日本語化キット, http://www.02.246.ne.jp/~yingming/macclinic/Drug/yakkyoku.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[12] Timo Schulz, Windows Privacy Tray, http://www.winpt.org/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[13] Anthony E. Mulcahy, Jos Carlos Garc Sogo and Steffen Zahn, Seahorse home page,
http://seahorse.sourceforge.net/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[14] Max Valianskiy, Gnome PGP and TkPGP Home Page, http://www.geocities.com/SiliconValley/Chip/3708/index.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[15] Masanori Takahashi, PGP付属のプラグイン動作状況, http://www.cla-ri.net/pgp/plugin.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[16] Yasuhiro ARAKAWA, GNU Privacy Guard Plug-in for Becky! 2, http://hp.vector.co.jp/authors/VA023900/gpg-pin/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[17] RimArts, Inc., Becky! Internet Mail, http://www.rimarts.co.jp/becky-j.htm
(最終アクセス 2002年1月11日)

[18] J. Galvin, S. Murphy, S. Crocker, N. Freed., "Security Multiparts for MIME: Multipart/Signed and Multipart/Encrypted.", RFC1847, October 1995.

[19] Apple Computer, inc: Cocoa, http://developer.apple.com/cocoa/index.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[20] Gordon Worley: Mac GNU Privacy Guard, http://macgpg.sourceforge.net/
(最終アクセス 2002年1月11日)

[21] Stephane Corthesy: GPGMail,
http://www.sente.ch/software/GPGMail/index.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[22] Tomio: GnuPG暗号化メールをMacOSXで使おう (GPGMailの日本語版を配布),
http://www.max.hi-ho.ne.jp/tomio-a/index_GnuPG.html
(最終アクセス 2002年1月11日)

[23] Alma Whitten and Doug Tygar: "Why Johnny Can't Encrypt: A Usability Evaluation of PGP 5.0", Proceedings of the 9th USENIX Security Symposium. August 1999.
http://www.usenix.org/publications/library/proceedings/sec99/full_papers/whitten/whitten.ps, more delailed presentation is available from http://reports-archive.adm.cs.cmu.edu/anon/1998/abstracts/98-155.html.
(最終アクセス 2002年1月11日)

[24] Kmail - the KDE mail client.
http://kmail.kde.org/.
(最終アクセス 2002年1月11日)

[25] 山本 博之, Sylpheed - a GTK+ based, lightweight, and fast e-mail client -.
http://sylpheed.good-day.net/.
(最終アクセス 2002年1月11日)n

[26] Free Software Foundation, GNU Privacy Handbook.
http://www.gnupg.org/gph/en/manual.html#MODULES.
日本語訳: http://members6.tsukaeru.net/kusimken/dir18/gph/#AEN581 .
(最終アクセス 2002年1月11日)


7 .謝辞

相互接続実験を手伝ってくれた秋山和隆, 手塚一郎両氏に感謝いたします.
本レポートはOpenPKSDプロジェクトの一環として作成された.
Copyright(C) 2002, Mamiya Akihiko, Arakawa Kensuke, and Ichikawa Yasushi.

本ドキュメントは,GNU Free Documentation License 1.1(GNU フリー文書 利用許諾契約書)の条件下で自由に利用可能である. 詳細については http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html から入手可能である.